佐藤雄紀ピアノリサイタルを終えて…♪

佐藤雄紀ピアノリサイタル オール・ラヴェル・プログラム、おかげさまで何とか終えることができました。お忙しい中、足を運んでいた皆様、気にかけて頂いた皆様、本当にありがとうございました。


何とか終えることができ、ほっとしています。今回、焦点をあてたラヴェル(1875-1937)とは、いったいどんな人物だったのでしょうか。


スペイン寄りのフランスバスク地方シブール出身で、見知らぬ人に対しては几帳面でクールであり、友人とは冗談好きで愉快であり、楽観的で、独立心が強く、強情で、理想主義的でした。160センチ、49キロ、洗練された服装で、パステルカラーのワイシャツを着た最初のひとりだったそうです。作曲する時はいつも引きこもっていましたが、パリのナイトライフやカフェで延々と議論すること、街の灯、ジャズ、雑踏を楽しみました。カポラル煙草、刺激的な香辛料、異国的な料理、カクテル、ワインに目がなかったそうです。水泳が得意でいくらでも泳げ、母親との結びつきも強かったようです。几帳面な身だしなみと対照的に日常的なことがらについては奇妙なほど無秩序だったそうです。また、いくらかうわのそらのところがあり、しじゅう時間が経つのを忘れました。


ラヴェルはまさに「温故知新」の作曲家でした。過去の作曲家、東西、ジャズなどあらゆるものを徹底的に学び、吸収し、自身の個性を保ち続けました。ラヴェルの言葉で重要なものに次のようなものがあります。「模倣しなさい。模倣しながらも自身を保持していられるということは、語るべきものを持っているからである。」


今回のプログラムもシャブリエ、ボロディン、シューベルト、スペイン音楽、クープラン、ウィーンのワルツなど多くのものに影響を受けながらも独自の世界を築いた作品群でした。


また、ラヴェルは自己にわざわざ困難な課題を課して、これにうち克つことに喜びと楽しみを見出だすといったタイプの職人タイプの人間でした。ある作曲家を模したり、構成に制限をかけたり、左手のみの協奏曲を作ったり、ムソルグスキーの展覧会の絵を一音も変更しないでオーケストラ編曲したりしました。


第一次世界大戦では、トラック輸送兵として従軍しました。

私が最も印象に残っているエピソードは、フランス音楽防衛国民同盟が、著作権のあるドイツとオーストリアの作曲家のあらゆる作品の演奏を禁止しようと提案し、サン=サーンスを始め80人のフランス音楽家が署名し、ラヴェルにも署名を求めたことがあったのですが、ラヴェルは毅然と「フランスの作曲家にとって、外国の同業者の作品を組織的に無視すること、またそうして国民的派閥を形成することは危険ですらあります。現在これほどさかんな我々の音楽芸術はすぐに衰退し、月並みな公式にとじこもることでしょう。例えばシェーンベルク氏がオーストリア国籍であることはどうでも良いことです。(中略)バルトーク、コダーイ、リヒャルト・シュトラウス」と反対しました。


ラヴェルは、多くの人が熱狂する中、冷静に見つめられた人間で、熱狂を描くことはあっても、決して熱狂の渦の中に入り込むことはなかったのです。


美しい響きの裏にある緻密な形式、磨き抜かれた音で構成されたラヴェル作品と向き合ううちに、私のピアノのタッチも変化してきたように感じています。また、私自身もこの眼でしっかりと今という時代を見続けていきたいと思います。


最後にプログラムの最初に載せたご挨拶を紹介いたします。

「ご来場の皆様、こんにちは。本日はご多忙の中、佐藤雄紀ピアノリサイタルに足を運んで頂き、本当にありがとうございます。このような時代、一つの会場に集まって、一つの音・音楽に耳を澄ますという行為は、益々貴重なことになってきているのかもしれません。しかし、これからどんなに機械化が進んだとしても、一人の人間の思想、感情、手から生み出される表現の重要性は変わらないでしょう。私もその可能性を信じ、少しでも本物に近づけるよう取り組み続けていきたいと思っています。


今日はフランスの作曲家、モーリス・ラヴェルに焦点を当てたピアノリサイタルです。ラヴェルの作品の中でも、(音楽と同じように)人間の根源的な営みである「舞踏」をテーマに、なかなか演奏会で取り上げられることの少ない佳作から、よく知られた充実した作品まで、ラヴェルの魅力的な世界を体感して頂けるようプログラムを構成いたしました。


挨拶の最後に、ラヴェルの芸術家としての信条をよく表した、高雅で感傷的なワルツの冒頭に書かれたエピグラフ(アンリ・ド・レニエの詩の一部)を紹介いたします。“無益な営みの魅惑的で常に新たなる喜び”」


ラヴェルの人生、音楽から学ぶことがとても多かったです。

これからも、自分のこの手と心と身体を使って、時間をかけて、じっくりピアノに向き合っていけたらと考えています。


次回も、一人の作曲家に焦点をあてたリサイタルを計画しています。

もし良かったら、また聴きに来て下さいね。

沢山の方に足を運んで頂き、大変嬉しかったです。

本当に本当にありがとうございました。


佐藤雄紀

0コメント

  • 1000 / 1000